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ネットネット株は今の日本株に何銘柄あるか実測した

by @kabueng55

ネットネット株の実測 - 日本株の該当銘柄数と業種・時価総額分布のグラフ

東証プライム+スタンダードの現存銘柄 (金融業除く・有効2,781銘柄) を機械集計した結果、2026年7月9日時点のネットネット株 (時価総額 < NCAV×2/3) は25銘柄だった。過去3断面 (2023〜2025年) の該当群はその後1年プラス率74.6%・リターン中央値+13.2%で、サイズ整合の小型対照群 (57.3%・+3.1%) を上回った。ただし該当は延べ114件と少なく、2024年断面では逆転している (nitekabu Journal検証)。

調査概要

項目内容
ユニバースJPX公式リストのプライム+スタンダード内国株式 3,122銘柄 → 金融業159銘柄を除外し2,963銘柄 (現存銘柄のみ・生存バイアスあり)
定義NCAV = 流動資産 − 総負債 − 非支配持分。ネットネット = 時価総額 < NCAV×2/3 (書籍由来)。感度として「時価総額 < NCAV」(緩和・探索) も集計
財務データ断面日時点で開示済みとみなす直近本決算 (期末+60日≤断面日・15ヶ月以内)。株数は自己株式控除後 (Ordinary Shares Number・全銘柄で取得成功)
現在断面2026年7月9日終値ベース
過去断面2023・2024・2025年の各6月末→1年後リターン (分割調整済み・配当除き)。2022年断面はデータ被覆が薄く参考扱い (有効161銘柄・集計除外)
除外鮮度条件を満たす決算なし: 延べ2,672件 (大半は2022断面)・流動資産等の項目欠損: 延べ173件・価格欠損: 延べ99件・財務取得不能6銘柄
データソースyfinance (財務・株価)・JPX公式銘柄リスト

検証スクリプトはコードレビュー3ラウンド (Critical/High=0) を通し、時価総額の算出は市販データとの突合 (30銘柄・中央値誤差0.7%) で確認しています。

ネットネット株とは——清算価値より安い株

ネットネット株とは、会社の正味流動資産 (NCAV) の3分の2より時価総額が小さい銘柄のことです (書籍由来。『賢明なる投資家』でグレアムが積極的投資家向けに示した基準)。

NCAV = 流動資産 − 総負債。工場や不動産などの固定資産をゼロと見なして、現金・売掛金・在庫などの流動資産だけで負債を全額返した残りが、いまの株価総額より大きい——それをさらに3分の2まで割り引いても、まだ株価のほうが安い。理屈の上では「事業を畳んでも儲かる値段」です。

グレアムの銘柄基準には2系統あり、防衛的投資家向けの7つの基準が「堅実な会社を適正以下で」なのに対し、ネットネットは「会社の中身を問わず、清算価値より圧倒的に安ければ」という割り切りの極北にあります。同じ安全域の思想の、最も過激な実装です。

日本では、この手法で資産を築いた かぶ1000氏 (@kabu1000) の存在で広く知られるようになりました。ダイヤモンド編集部が同氏の手法を再現して105銘柄のリストを組んだ特集 (2021年) もあります。ただし大手メディアの記事はインタビューや手法紹介が中心で、「いま何銘柄あるか」を定点で機械集計した公開データはほぼ見当たりません。私がこの集計を始めたのも、「手法の名前はこれだけ有名なのに、今の実数を誰も出していない」ことが単純に気になったからです。実際に数えてみると、該当うんぬん以前にNCAVがマイナスで土俵に上がれない会社が有効銘柄の約3割ある——そんな基本的な分布すら公開データでは確認できませんでした。この記事はそこを実測で埋めます。

今の日本株にネットネット株は何銘柄あるのか?

25銘柄です (2026年7月9日時点・時価総額<NCAV×2/3・有効2,781銘柄中)。基準を「時価総額<NCAV」に緩めると131銘柄になります。

ネットネット株25銘柄の業種分布と時価総額帯 (2026年7月時点)
該当25銘柄の業種分布 (左) と時価総額帯 (右)。時価総額中央値は51億円

分布には明確な性格が出ています。

  • 超小型に極端に偏る: 時価総額の中央値は51.2億円。25銘柄中19銘柄が100億円未満で、1,000億円以上はゼロです。大型株には存在しない現象と言えます。
  • 業種は資産の重い伝統セクター+α: 不動産業5・電気機器4・卸売業3・小売業3。在庫や販売用不動産など流動資産が積み上がりやすい業種が上位に来る構造です。
  • 該当の「深さ」はまちまち: 25銘柄の時価総額/NCAV比は0.32〜0.67に分布し、最も深い銘柄は清算価値の3分の1以下で取引されています。

個別銘柄名はここでは挙げません。該当銘柄は業績や開示で入れ替わる上、この記事の目的は基準充足数の定点観測であり、特定銘柄の売買を示唆するものではないからです (集計値・図表は記事末のポリシーの範囲で引用いただけます)。

過去3年でどう推移し、その後1年はどうだったか?

該当銘柄数は49→25→40銘柄と、市場の水準次第で倍半分のレンジで振れています。2024年6月末の25銘柄が直近3年の底で、日本株の上昇局面でネットネット株が減った (=拾われた・株価が上がって基準から外れた) ことが読み取れます。

ネットネット株該当数の推移とその後1年リターン (2023〜2025年3断面)
該当銘柄数の推移 (左) と、該当群/非該当群/TOPIXのその後1年リターン中央値 (右)
断面該当数該当群 中央値該当群 プラス率小型対照群 中央値TOPIX (参照)
2023年6月末→2024年49+26.16%85.7%+6.67%+22.69%
2024年6月末→2025年25-6.68%28.0%-1.89%+2.07%
2025年6月末→2026年40+16.22%90.0%+5.48%+39.80%

この増減自体が市場の温度計になります。該当数が膨らむ局面は「市場が小型バリューを見捨てている」局面であり、絞られる局面は資産バリュー株に資金が回っている局面です。実践者の発信でも、かぶ1000氏 (@kabu1000) が「今日は名証の資産バリュー株が全般的に強いなぁ」と地合いの変化を観察しているように、資産バリュー圏の温度は日々動いています。定点の該当数は、その温度を数字で残そうという私の試みです。

3断面合算 (延べ114件・62銘柄) では、該当群のプラス率74.6%・中央値+13.24%・平均+20.77%。単純な非該当群 (59.1%・+4.92%) だけでなく、時価総額を揃えた小型対照群 (該当群の時価総額90パーセンタイル以下の非該当銘柄・4,007件: 57.3%・+3.14%) と比べても上回っており、「単に小型株だから」だけでは説明しにくい差でした。平均差の95%信頼区間は+0.31〜+12.46ポイントでゼロを含みませんが、該当群が114件と小さく、断面内の相関や流動性の交絡は統制できていないため探索的な結果として扱ってください。

同時に、2024年断面の逆転から目を逸らすべきではありません。該当25銘柄の中央値-6.68%・プラス率28.0%は、小型対照群 (-1.89%) よりはっきり悪い数字です。母数が25と小さいため断定はできませんが、少なくとも「ネットネットは毎年勝てる」という単純化をデータが否定しています。緩和基準 (時価総額<NCAV・延べ551件) でもプラス率71.1%・中央値+10.78%と方向は同じで、基準の深さを変えても傾向は保たれました。

自分でネットネット株を判定する手順

ネットネット株の判定手順4ステップ - 決算短信からNCAV計算・2/3倍・時価総額比較まで
決算短信の数字2つだけで判定できる4ステップ

スクリーナーに頼らず、決算短信と電卓だけで1銘柄3分で判定できます。手順は4つです。

  1. 決算短信の貸借対照表を開く。「流動資産合計」と「負債合計」を拾います。連結で非支配持分がある会社は、純資産の部の「非支配株主持分」もメモします。
  2. NCAVを計算する: 流動資産合計 − 負債合計 − 非支配株主持分。ここがマイナスなら、その銘柄は定義上ネットネットになり得ません (本検証の現在断面では有効銘柄の約3割がNCAVマイナスでした)。
  3. 3分の2を掛ける: NCAV × 2/3 が基準線です。
  4. 時価総額と比べる: 証券アプリの時価総額が基準線を下回っていれば該当。自社株買いの多い会社は、発行済株式数ではなく自己株式控除後の株式数×株価で時価総額を見るとより正確です。

注意点は2つ。銀行・保険など金融業は貸借対照表の様式が違うためこの計算は使えません。また、決算短信は年1回の本決算より四半期のほうが新しいので、手計算では直近の四半期報告のBSを使うと本検証 (年次のみ) より鮮度の高い判定ができます。

無料スクリーナーにNCAVの条件式を直接入れられるものは少ないため、「PBR0.5倍以下・時価総額100億円未満」などで粗く絞ってから、残った銘柄をこの手順で1つずつ確定させるのが現実的な流れです。

私自身、育休中は作業時間が1時間×2〜3回の細切れでした。その経験もあって、決算短信から数字を2つ拾えば終わるこの種の機械的な判定は、まとまった調査時間が取れない人にこそ向くと感じています。

「安い」には理由がある——バリュートラップの論点

清算価値より安い株が放置されるのには、たいてい構造的な理由があります。ここを飛ばしてネットネット株を語ることはできません。

第一に、清算されない清算価値。NCAVは「畳めばこれだけ残る」という理論値ですが、実際に会社が清算・売却・大規模還元に動かなければ、その価値は株主に届きません。経営陣が現状維持を選び続ける限り、割安は何年でも割安のままです。

第二に、燃えていく流動資産。赤字が続く会社では、流動資産 (=NCAVの源泉) が毎期の損失で削られていきます。買った時点のNCAVは1年後には小さくなっているかもしれず、「安全域が時間とともに侵食される」点で、優良企業の割安とは危険の質が違います。

第三に、流動性の壁。時価総額中央値51億円・多くが薄商いの銘柄群です。板が薄く、まとまった資金では「その値段で」買えも売れもしないことが珍しくありません。本検証のリターンにも売買コスト・スリッページは含まれていません。

私は前職で約10年、製造業の現場にいました。帳簿の上では立派な資産でも、用途の限られた設備や古い機械は買い手がつかず、処分するとなればスクラップに近い値段になる——そういう場面を何度も見ています。だから「固定資産をゼロと見なす」NCAVの割り切りは、現場感覚としてはむしろ誠実に映ります。同時に、流動資産に含まれる在庫も、業種によっては帳簿どおりに換金できるとは限りません。

安さの理由を個別に見分けるチェックの手順は バリュートラップの見分け方 に整理しています。またネットネットが「割安の極北」だとすれば、その手前の広い割安圏がどう機能したかは別記事で扱っており、2つの検証はグレアムの基準を両端から測る対になっています。

限界と注意

この実測には次の限界があります。

  • 生存バイアス (ネットネットでは特に重い): ユニバースは現在の上場銘柄のみで、期間中にTOB・完全子会社化・上場廃止・倒産となった銘柄を含みません。ネットネット株はTOBや MBO の対象になりやすく、プラス方向の主要な出口 (プレミアム買付) とマイナス方向の出口 (破綻) の両方が観測から欠けています。リターンの向きへの純効果は不明です。
  • 標本が小さい: 該当は延べ114件・ユニーク62銘柄・3断面のみ。信頼区間は表示しましたが探索的な参考値です。
  • 配当除き: ネットネット株の投資成果は配当・特別配当で実現されることが多く、株価リターンのみの本集計は投資家リターンを過小評価する方向のバイアスを持ちます。
  • 年次決算のみ: NCAVは直近本決算ベースで、最大15ヶ月前の断面があり得ます。四半期BSやEDINETでの精密化は続編で扱います。
  • 開示日の近似・訂正の混入: 期末+60日の固定ラグで「開示済み」を近似しており、個別の開示日は突合していません。財務データは再表示後の最新版です。
  • 対象範囲: グロース市場は対象外、金融業は貸借対照表の様式が異なるため除外しています。ネットネット株が多いとされる地方市場・小型グロースを含めれば件数は変わり得ます。
  • 投資助言ではない: 基準充足数の集計であり、該当銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

まとめ

  • 2026年7月時点のネットネット株は25銘柄 (プライム+スタンダード・金融除く有効2,781銘柄中)。時価総額中央値51億円の超小型に集中し、緩和基準 (時価総額<NCAV) なら131銘柄。
  • 過去3断面の該当群はその後1年**プラス率74.6%・中央値+13.2%**で、サイズを揃えた対照群 (57.3%・+3.1%) を上回った。ただし2024年断面は-6.7%と逆転しており、毎年効く基準ではない。
  • 該当銘柄は「安いなりの理由」と流動性の壁を抱えた集合であり、件数の定点観測 (市場の割安在庫の温度計) として使うのが、この数字の一番堅実な使い道になる。

この集計は私が定期的に更新し、該当数の推移を追記していきます。私自身は25という個別の数字より、この数が次に膨らむ局面がいつ来るのか——割安在庫の温度計として季節ごとに読み直すつもりです。


図表・データの引用について: 本記事の図表・集計値は、出典として「nitekabu Journal」と本記事URLを明記いただければ引用可能です。

検証環境: yfinance + JPX公式銘柄リスト・検証スクリプト netnet_kabu_jissoku.py (コードレビュー3ラウンド・時価総額突合検証済み)・集計日 2026-07-10。

書誌情報

  • 『賢明なる投資家──割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法』ベンジャミン・グレアム著、土光篤洋監修、パンローリング — NCAV基準 (ネットネット株) の出典。書籍ページ(Amazon)

免責事項: 本記事の検証結果は過去データに基づく統計的傾向であり、将来のパフォーマンスを保証するものではありません。特定銘柄・特定手法の売買を推奨するものではなく、投資判断は自己責任でお願いします。

// faq

よくある質問

Q. ネットネット株とは何ですか?

A. 時価総額が正味流動資産 (NCAV = 流動資産−総負債) の3分の2を下回る銘柄のことです。ベンジャミン・グレアムが積極的投資家向けに示した基準で、会社を清算して負債を全部返してもまだお釣りが来る水準よりさらに安い、極端な割安状態を指します。

Q. 日本株にネットネット株は今何銘柄ありますか?

A. 本検証の機械集計では、2026年7月9日時点でプライム+スタンダードの有効2,781銘柄 (金融業除く) のうち25銘柄でした。基準を「時価総額がNCAV未満」に緩めると131銘柄です。該当銘柄は時価総額中央値51億円の超小型株に偏っています。

Q. ネットネット株を買えば勝てるのですか?

A. 保証はありません。過去3断面の該当群はその後1年プラス率74.6%・中央値+13.2%と小型対照群を上回りましたが、2024年断面では中央値-6.7%と対照群より悪化しました。該当銘柄は延べ114件と少なく、流動性・売買コストも未考慮の参考値です。

Q. ネットネット株はどこでスクリーニングできますか?

A. NCAV (流動資産−総負債) を条件式に直接指定できる無料スクリーナーは少なく、四季報オンラインの有料プランや自作の集計が現実的です。決算短信の貸借対照表から流動資産と負債合計を拾えば、1銘柄ずつなら手計算でも確認できます。

Q. なぜネットネット株はそんなに安く放置されるのですか?

A. 多くの場合、業績低迷・縮小事業・低い資本効率など「安いなりの理由」を抱えているためです。清算価値より安くても、実際に清算や還元が行われなければ価値は表面化しません。だからこそ安さの理由を個別に確認するバリュートラップの視点が必須になります。